セミナーの内容
□第26回リゾナーレ室内楽セミナー
研修期間:2016年4月3日(日)~ 4月8日(金)
会場:リゾナーレ八ヶ岳山梨県北杜市小淵沢町
講師:
Jorg Wolfgang Jahn / J.W.ヤーン(ヴァイオリン、ヴィオラ)カールスルーエ国立音楽大学教授
岡山 潔(ヴァイオリン)東京藝術大学名誉教授
服部芳子(ヴァイオリン)愛知県立芸術大学名誉教授
山口裕之(ヴァイオリン)桐朋学園大学、東京音楽大学客員教授
川崎和憲(ヴィオラ)東京藝術大学教授
山崎伸子(チェロ)東京藝術大学名誉教授、桐朋学園大学特任教授
河野文昭(チェロ)東京藝術大学教授
受講生:
Quartet d’amore
牧野 葵(Vn.)愛知県立芸術大学在学中
中村真帆(Vn.)愛知県立芸術大学在学中
白井英峻(Va.)愛知県立芸術大学在学中
関根のぞみ(Vc.)愛知県立芸術大学在学中
【受講曲】L.v.ベートーヴェン:弦楽四重奏曲 へ長調Op.18-1
Lumière Quartet
小西もも子 (Vn.)東京藝術大学在学中
柘植彩音(Vn.)東京藝術大学在学中
長田健志(Va.)東京藝術大学在学中
北垣 彩(Vc.)東京藝術大学在学中
【受講曲】L.v.ベートーヴェン:弦楽四重奏曲 ヘ短調「セリオーソ」 Op.95
Lupinus Quartet
弓塲多香子(Vn.)東京藝術大学在学中
加藤周作(Vn.)東京藝術大学在学中
児仁井かおり(Va.)東京藝術大学在学中
蟹江慶行(Vc.)東京藝術大学在学中
【受講曲】L.v.ベートーヴェン:弦楽四重奏曲 二長調Op.18-3
Nancy Quartet
坪井夏美(Vn.)東京藝術大学大学院在学中
西村萌玖夢(Vn.)東京藝術大学卒業
渡部咲耶(Va.)東京藝術大学大学院在学中
グレイ理沙(Vc.)東京藝術大学在学中
【受講曲】L.v.ベートーヴェン:弦楽四重奏曲 ハ短調Op.18-4
Akama Quartet
赤間さゆら(Vn.)東京藝術大学在学中
村山由佳(Vn.)東京藝術大学在学中
松岡百合音(Va.)東京藝術大学在学中
三谷野絵(Vc.)東京藝術大学在学中
【受講曲】F.メンデルスゾーン:弦楽四重奏曲第1番 変ホ長調 Op.12
Quartet Ceresia
前田奈緒 (Vn.)東京藝術大学卒業
福崎雄也(Vn.)東京藝術大学大学院修了
高橋梓(Va.)東京藝術大学大学院修了
福崎茉莉子(Vc.)桐朋学園大学研究科修了
【受講曲】L.v.ベートーヴェン:弦楽四重奏曲 ヘ短調「セリオーソ」 Op.95
Quartet Gioia
石田紗樹(Vn.)東京藝術大学大学院修了
三輪莉子(Vn.)東京藝術大学大学院在学中
樹神有紀(Va.)東京藝術大学大学院修了
飯島哲蔵(Vc.)東京藝術大学大学院在学中
【受講曲】L.v.ベートーヴェン:弦楽四重奏曲 変ホ長調「ハープ」 Op.74
Quartet Amabile
篠原悠那(Vn.)桐朋学園大学ソリスト・ディプロマコース修了
北田千尋(Vn.)桐朋学園大学在学中
中恵菜(Va.)桐朋学園大学卒業
笹沼樹(Vc.)桐朋学園大学ソリスト・ディプロマコース修了
【受講曲】B.バルトーク:弦楽四重奏曲 第4番
Quartet Arpa
小川響子(Vn.)東京藝術大学3年
戸原 直(Vn.)東京藝術大学3年
飯野和英(Va.)東京藝術大学大学院在学中
伊東 裕(Vc.)東京藝術大学3年
【受講曲】W.A.モーツァルト:弦楽四重奏曲 ト長調「春」 K.387
優秀賞・奨励賞受賞グループ
優秀賞:
Quartet Arpa
奨励賞:
Akama Quartet
Quartet Amabile
2016年4月23日(土)15時開演
レクチャー&コンサート
講師:田辺秀樹(ドイツ文学・ピアノ)
幼少時よりピアノを習う。東京大学文学部でドイツ文学専攻。卒業論文は「モーツァルトとドイツの文学者達」。1978~80年ドイツのボン大学留学。2012年まで一橋大学大学院言語社会研究科教授(ドイツ語、音楽文化論担当)。現在、一橋大学名誉教授。「モーツァルト」(新潮文庫)をはじめ、音楽に関係する著書多数。放送番組への出演、執筆、講演活動のほかウィーンのカフェ、日本のリゾートホテル等でのピアノによるカフェ音楽演奏が評判を呼んでいる。
共演:西野 薫(声楽・ソプラノ)
東京藝術大学卒業。同大学院オペラ科修士課程修了後、1989~91年までイタリアへ留学。日本モーツァルト音楽コンクール第1位。日本音楽コンクール第2位。数多くのオペラに出演、オラトリオ等でも活躍。ヨーロッパ各地においても様々な公演を行う。2003年市川市市民文化奨励賞受賞。
□ コンサートプログラム
レオポルディ:ヘルナルスの小さなカフェにて
カールマン:ウィーンへのあいさつ
ドマニク=ロル:懐かしの1830年代
グルーバー:私のママはウィーン生まれ
レハール:「メリー・ウィドウ」から「さあ、あの東屋へ」「メリー・ウィドウ・ワルツ」ピック:ウィーンの辻馬車の御者の歌
レハール:わが心はきみのもの
シュトルツ:プラーター公園の春
シュトラウス/O.シュタラ:ズィーファリングの郊外では
シュトルツ:ウィーンは夜こそ素晴らしい
ズィツィンスキー:ウィーン、わが夢の街
2016年5月8日(日)15時開演
公開レッスン&コンサート
講師:
Leipziger Streichquartett/ライプツィヒ弦楽四重奏団
Conrad Muck/コンラート・ムック(ヴァイオリン)
Tilmann Büning/ティルマン・ビューニング(ヴァイオリン)
Baues Ivo/バウエス・イーヴォ(ヴィオラ)
Matthias Moosdorf/マティアス・モースドルフ(チェロ)
1988年ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の首席奏者たちによって創設され、93年クァルテットとして独立。ミュンヘン国際コンクール第2位(1位無し)。91年ブッシュ兄弟賞、92年ジーメンス音楽賞受賞。CDでは広範囲なレパートリーの録音を行っており、数々の賞を受賞。ヨーロッパ各地、日本を中心に演奏活動をおこなっている。東京藝術大学招聘教授。
□受講生
赤間さゆら(Vn.)東京藝術大学4年
村山由佳(Vn.)東京藝術大学4年
松岡百合音(Va.)東京藝術大学4年
三谷野絵(Vc.)東京藝術大学4年
受講曲:F.メンデルスゾーン:弦楽四重奏曲第1番 変ホ長調 Op.12
□コンサートプログラム
ハイドン:弦楽四重奏曲第67番 二長調 「ひばり」 Op.64-5 Hob.Ⅲ-63
ブラームス:弦楽四重奏曲第3番 変ロ長調 Op.67
2016年6月19日(日)15時開演
レクチャー&コンサート
レクチャー:
福中冬子(音楽学)
国立音楽大学器楽科ピアノ専攻卒業。ニューヨーク大学大学院修士課程および博士課程修了。哲学博士。2001年~2003年ニューヨーク大学非常勤講師。2006年より慶応大学非常勤講師、2008年より明治学院大学非常勤講師。2010年より東京藝術大学准教授。現代音楽、オペラ等の研究業績が特筆される。
演奏:
近藤薫(ヴァイオリン)
東京藝術大学卒業後、同大学院修士課程を修了。藝大の派遣によりウィーン音楽大学の夏期講習会に参加し、アルバン・ベルク、アマデウス、ハーゲン等の弦楽四重奏団のメンバーに学び、室内楽の分野でも研鑽を積む。2015年4月から東京フィルハーモニー交響楽団コンサートマスターに就任。九州交響楽団首席客演コンサートマスターも兼任。
長尾洋史(ピアノ)
東京藝術大学、同大学院修士課程を修了。 1989年第1回宝塚ベガ音楽コンクール、91年HIMES海外音楽研修者派遣選抜コンクール第1位。1995年パリ・エコールノルマルに留学。ソロ、リサイタルや室内楽の分野で幅広く活躍し、現代音楽の分野では内外の作品初演を多く手掛けている。
□コンサートプログラム
フランク:ヴァイオリン・ソナタ イ長調
2016年7月17日(日)15時開演
公開レッスン&コンサート
講師:
野平一郎(作曲、ピアノ)
東京藝術大学作曲科を卒業し、同大学院修了。パリ国立高等音楽院で作曲とピアノ伴奏法を学び卒業。作曲家としてはフランス文科省、IRCAMからの委嘱作品を含む多くの作品が国内外で放送されている。また演奏家として国内外の主要オーケストラとの協演、多くの名手たちとの共演など、精力的な活動を行っている。中島健蔵賞、サントリー音楽賞、芸術選奨文部科学大臣賞等受賞。2012年紫綬褒章受賞。「ベートーヴェン ピアノ・ソナタの探求」上梓。静岡音楽館AOI芸術監督、東京藝術大学教授。
共演:
松原勝也(ヴァイオリン)
東京藝術大学附属音楽高校経て同大学及び大学院修士課程修了。元新日フィルコンサートマスター。ソロ、室内楽で幅広く活躍。近年はJ.S.バッハの鍵盤音楽の弦楽への編曲を行い、CD「ゴルドベルク変奏曲弦楽五重奏版」『プレリュードとフーガ弦楽五重奏版』をリリース。AOIレジデンスクァルテット、アーニマ四重奏団メンバー。東京藝術大学教授。
四戸世紀(クラリネット)
東京藝術大学附属音楽高校を経て、同大学卒業。ベルリンのカラヤン・アカデミーに在籍。北西ドイツ・フィル、ベルリン交響楽団、読売日本交響楽団の各首席クラリネット奏者を歴任。室内楽の分野においても国内外で活躍。現在、東京音楽大学教授、桐朋学園大学、日本大学芸術学部講師。
□受講生
1) 中島健太(Cl.) 国立音楽大学卒業
松本理奈(Vn.) 国立音楽大学卒業
田邊安希恵(Pf.)国立音楽大学大学院修士課程在学中
2) 土岐香奈恵(Cl.)東京音楽大学大学院科目等履修生
柏原 悠(Vn.) 東京音楽大学大学院科目等履修生
鈴木菜穂(Pf.) 東京音楽大学大学院修士課程在学中
3) 亀居優斗(Cl.) 東京藝術大学3年
湯原佑衣(Vn.) 東京藝術大学3年
坂牧春佳(Pf.) 東京藝術大学3年
受講曲:D.ミヨー:ピアノ、ヴァイオリンとクラリネットのための組曲 Op.157b
□コンサートプログラム
ミヨー:ピアノ、ヴァイオリンとクラリネットのための組曲 Op.157b
ミヨー:屋根の上の牡牛 Op.58
2016年8月14日(日)15時開演
レクチャー&コンサート
演奏:Gottlieb Wallisch/ゴットリープ・ヴァリッシュ(ピアノ)
ウィーンの音楽一家に生まれ、6歳よりウィーン音楽演劇大学に学び、卒業。ストラヴィンスキー・アウォード(USA)にて第1位とイーヴォ・ポゴレリッチ賞。エリザベート王妃国際コンクール、クララ・ハスキル・ピアノ・コンクールにてファイナリスト。世界各地の主要オーケストラ、指揮者と協演、また主要ホールにてソロリサイタルを行う。ヨーロッパ各地、アメリカ、中東諸国、日本、香港等でコンサートツアーを行っている。ジュネーブ高等音楽院教授。スタインウェイ・アーティスト。
通訳:吉川幸祐
□コンサートプログラム
シューマン:子供の情景 Op.15
シューベルト:3つのピアノのための小品 D946
2016年9月22日(木・祝)15時開演
コンサート
演奏:
Johannes Fleischmann/ヨハネス・フライシュマン(ヴァイオリン)
2003年、ウィーン音楽演劇大学に入学、K.メッツル、C.アルテンブルガーに師事。2011年、ウィーン音楽演劇大学を最優秀の成績で卒業。2009年オーストリア=スロヴァキア管弦楽団とブラームスのコンチエルトを演奏、ソリストとしてデビュー。室内楽奏者としてはヨーロッパ各地の音楽祭から招待され、著名演奏家と共演を重ねる。
Norman Shetler/ノーマン・シェトラー(ピアノ)
世界屈指のリート伴奏者のひとり。長年D.F=ディースカウ、A.ローテンブルガー、P.シュライヤーと共演。世界各地でソリスト、室内楽奏者として活躍、80以上のレコード録音も行い、彼の高い芸術性に数々の賞を受賞。人形遣いとしても有名で、各地の劇場、音楽祭でユーモアあふれる音楽人形劇を披露。元ウィーン国立音楽大学教授、ヴュルツブルク音楽大学教授。
□コンサートプログラム
L.v.ベートーヴェン:ピアノとヴァイオリンのためのソナタ第10番 ト長調 Op.96
ドビュッシー:ヴァイオリン・ソナタ ト短調 L.140
シューベルト:ピアノとヴァイオリンのためのソナタ イ長調 Op.162 D574
2016年10月23日(日)15時開演
公開レッスン&コンサート
講師:小林道夫(ピアノ、チェンバロ、指揮)
東京藝術大学楽理科を卒業後、ドイツのデトモルト音楽大学に留学、研鑽を積む。ピアノ、チェンバロ、室内楽、指揮など多方面にわたり活躍。世界的名伴奏者であったジェラルド・ムーアと比肩するとまで言われ、世界の名だたる演奏家たちと共演。サントリー音楽賞、ザルツブルク国際財団モーツァルテウム記念メダル、モービル音楽賞などを受賞。国立音楽大学教授、東京藝術大学客員教授、大阪芸術大学大学院教授などを歴任。大分県立芸術短期大学客員教授。
共演:桐山建志(ヴァイオリン)
東京藝術大学を経て、同大学院修了。フランクフルト音楽大学卒業。1998年第12回古楽コンクール「山梨」第1位。1999年ブルージュ国際古楽コンクール第1位。CD多数。ベーレンライター社より星野宏美氏との共同校訂による『メンデルスゾーン:ヴァイオリン・ソナタ全集』を出版。愛知県立芸術大学准教授、フェリス女学院大学講師。「松本バッハアンサンブル」コンサートマスター、エルデーディ弦楽四重奏団ヴィオラ奏者。
□受講生
早淵綾香(Vn.)東京藝術大学卒業、同大学院修士課程在学中
香川明美(Pf.)桐朋学園大学卒業、東京藝術大学大学院修士課程在学中
受講曲:J.S.バッハ:ヴァイオリンとピアノのためのソナタ第4番 BWV1017
□コンサートプログラム
J.S.バッハ:ヴァイオリンとピアノのためのソナタ第4番 BWV1017
J.S.バッハ:ヴァイオリンとピアノのためのソナタ第6番 BWV1019
2016年11月6日(日)15時開演
公開レッスン&コンサート
講師:今井信子(ヴィオラ)
桐朋学園大学卒業、イェール大学大学院、ジュリアード音楽院で研鑽を積む。1967年ミュンヘン、68年ジュネーヴ両国際コンクール最高位入賞。70年西ドイツ音楽功労賞受賞。ヨーロッパの主要オーケストラと協演、世界的演奏家との共演、「ミケランジェロ弦楽四重奏団」を主宰するなど世界のヴィオラ界をリードする存在。アムステルダム音楽院、クロンベルクアカデミー教授、上野学園大学特任教授。2015年よりソフィア王妃高等音楽院(スペイン)教授。「ヴィオラ・スペース」の企画・演奏に携わる。ベルギー在住。
共演:佐々木亮(ヴィオラ)
東京藝術大学附属高校を経て同大学卒業。ジュリアード音楽院でさらに研鑽を積む。現音室内楽コンクール第1位。東京室内楽コンクール第2位。NHK交響楽団首席ヴィオラ奏者。2008~2014年、岡山潔弦楽四重奏団メンバー。アメリカ・日本で著名演奏家たちと室内楽の分野で活躍。桐朋学園大学、洗足学園大学、東京藝術大学講師。
□受講生
1) ヴィオラ2つのグループ:
山本 成(Va.)桐朋学園大学3年
日下水月(Va.)桐朋学園大学2年
2) ヴィオラ2つのグループ:
秀岡悠汰(Va.)東京音楽大学卒業、同大学大学院在学中
芝田春音(Va.)東京音楽大学卒業、同大学大学院在学中
3) ヴァイオリン2つのグループ:
葉石真衣(Vn.)東京藝術大学卒業、同大学大学院在学中
小山あずさ(Vn.)東京藝術大学卒業、現在仙台フィルハーモニー管弦楽団団員
4) ヴァイオリン2つのグループ:
長尾春花(Vn.)東京藝術大学大学院博士課程在学中、ハンガリー国立リスト音楽大学在学中
花岡沙季(Vn.)東京藝術大学卒業、ハンガリー国立リスト音楽大学大学院修士課程修了
【受講曲】B.バルトーク:44の二重奏曲 BB.104 より
第1、6、8、9、16、19、21、28、36、42、43、44曲の計12曲
□コンサートプログラム
バルトーク:44の二重奏曲 BB.104 より
第44曲「トランシルヴァニアの踊り」 第19曲「メルヒェン」 第16曲「ブルレスク」
第28曲「悲しみ」 第43曲「ピッツィカート」 第36曲「バグパイプ」
第21曲「新年の歌」 第42曲「アラビアの歌」 第1曲「からかいの歌」
第8曲「スロヴァキアの歌」 第6曲「ハンガリーの歌」 第9曲「遊びの歌」
第44曲「トランシルヴァニアの歌」
2016年12月3日(土)15時開演
レクチャー&コンサート
演奏:高野耀子(ピアノ)
パリに生まれ、4歳からピアノを始める。15歳で東京音楽学校に入学、3年後パリに戻り、19歳でコンセルヴァトワールをプルミエ・プリで卒業。その後ドイツのデトモルト音楽院でH.リヒター・ハーザーに師事。1954年ヴィオッティ国際コンクールで優勝。以後ヨーロッパ各地の主要オーケストラと協演を重ねるなど活発な演奏活動を行う。1965年から4年間A.B.ミケランジェリの薫陶を受ける。1979年帰国、東京を中心に各地でオーケストラとの協演をし、リサイタルを開催、現在にいたる。
□コンサートプログラム
J.S.バッハ:シンフォニア第11番 ト短調 BWV797
ハイドン:ピアノ・ソナタ第31番 変イ長調 Hob.XVI:46
シューベルト:4つの即興曲 より 第3番 変ト長調、第2番 変ホ長調 Op.90 D899
ラヴェル:高雅で感傷的なワルツ
プーランク:主題と変奏 変イ長調 FP.151
2017年1月9日(月・祝)15時開演
新進演奏家コンサート
演奏:
郷古 廉(ヴァイオリン)
2006年第11回ユーディ・メニューイン青少年国際コンクールジュニア部門第1位(史上最年少)。13年ティボール・ヴァルガ シオン国際コンクール優勝。ウィーン私立音楽大学にて研鑽を積みながら日本各地の主要オーケストラと協演するなど、ヨーロッパ、日本でソリストとして活躍。14年オクタヴィア・レコードより無伴奏作品によるCD、15年にはnascorレーベルよりブラームスのソナタ全集をリリース。
加藤洋之(ピアノ)
東京藝術大学を卒業。同大学院在学中の1990年、ジュネーブ国際音楽コンクール第3位。ハンガリー国立リスト音楽大学に留学、ケルンでも研鑽を積む。国内外のオーケストラとの協演をはじめ、ヨーロッパ各地の主要ホール、音楽祭などで演奏活動をおこなう。ウィーンフィルのメンバーと頻繁に室内楽を共演、特にコンサートマスター、ライナー・キュッヒル氏との共演は20年近くに及ぶ。
□コンサートプログラム
L.v.ベートーヴェン:ピアノとヴァイオリンのためのソナタ第1番 ニ長調 Op.12-1
バルトーク:ヴァイオリンとピアノのためのソナタ第2番
L.v.べートーヴェン:ピアノとヴァイオリンのためのソナタ第2番 イ長調 Op.12-2
バルトーク:ヴァイオリンとピアノのためのソナタ第1番
2017年2月18日(土)15時開演
レクチャー&コンサート
講師:
藤本一子(音楽学)
国立音楽大学大学院修了、ウィーン大学留学。18~19世紀ドイツ・オーストリア音楽史、とくにR.シューマンを中心とするロマン派音楽を研究。「R.シューマン≪ピアノ五重奏曲≫Op.4の成立史研究」により博士学位。主著に『シューマン』(大作曲家・人と作品 音楽之友社)、共著に『モーツァルト事典』『ベートーヴェン事典』(東京書籍)『ベートーヴェン全集』(講談社)。元・国立音楽大学教授、東京藝術大学講師。2012年から年2回「ロマン派音楽レクチャー・コンサート」主催。
演奏:
奈良希愛(ピアノ)
東京藝術大学卒業後、ベルリン芸術大学に進学し卒業および同大学大学院国家演奏家コースを修了。マンハッタン音楽院大学院プロフェッショナルスタディコース修了。第13回 R.シューマン国際音楽コンクールピアノ部門優勝。数多くの国際コンクール上位入賞。ヨーロッパ、日本を中心にソロ、室内楽、歌曲伴奏の分野で活躍。国立音楽大学准教授、昭和音楽大学ピアノアートアカデミー講師。
谷地畝晶子(声楽・アルト)
岩手大学教育学部文化課程音楽コース卒業。東京藝術大学大学院後期博士課程修了。「ブラームスの“低声のため”の歌曲における一考察」により博士学位。第26回日仏声楽コンクール第1位。2012年度三菱地所賞受賞。オペラ、オラトリオの分野で活躍。現在、岩手大学、岩手県立大学講師。
戸原 直(ヴァイオリン)
東京藝術大学卒業。現在同大学院修士課程2年。2012年コンセール・マロニエ21弦楽器部門第1位。デザインK国際音楽コンクール2012全部門グランプリ第1位。紀尾井シンフォニエッタ東京2015‐2016シーズン・メンバー。サントリーホール室内楽アカデミー第3期フェロー。
□コンサートプログラム
ブラームス:5つの歌曲 Op.105 より
第1曲「メロディーのように」
第3曲「嘆き」
第2曲「私のまどろみは、いよいよかすかに」
第4曲「教会墓地で」ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ第3番 ニ短調 Op.108
2017年3月12日(日)15時開演
公開レッスン&コンサート
講師:
山崎伸子(チェロ)
桐朋女子高等学校音楽科、同大学音楽学部卒業。更にジュネーヴでP.フルニエに師事。ヨーロッパ・日本の主要オーケストラと協演。ソリストとして、また室内楽奏者としても活躍。第1回民音室内楽コンクール第1位。第44回日本音楽コンクール第1位。2007年より10年にわたるチェロソナタシリーズを開催。同シリーズライブCDで第49回レコード・アカデミー賞受賞。「東燃ゼネラル音楽賞」奨励賞受賞。桐朋学園大学特任教授。東京藝術大学名誉教授。
共演:
津田裕也(ピアノ)
東京藝術大学を首席卒業、同大学院修士課程を首席修了。2011年ベルリン芸術大学を最優秀の成績で卒業。第3回仙台国際コンクール優勝、ミュンヘン国際コンクール特別賞。ソリストとして内外のオーケストラと協演、室内楽の分野でも多彩な活躍をおこなっている。
□受講生
8) 内山剛博(Vc.)桐朋学園大学1年
追川礼章(Pf.)東京藝術大学大学院ソルフェージュ科在学中
9) 水野優也(Vc.)桐朋学園大学ソリスト・ディプロマ1年
神谷悠生(Pf.)桐朋学園大学カレッジ・ディプロマ在学中
受講曲:C.ドビュッシー:チェロ・ソナタ 二短調
□コンサートプログラム
ドビュッシー:チェロ・ソナタ 二短調
ショパン:チェロ・ソナタ ト短調 Op.65
セミナーレポート
「ウィーンのカフェにて」
講師:田辺秀樹
2016年4月23日(土)
共演:西野薫
レクチャー&コンサート
ハナミズキに八重桜、様々なツツジ、フジ、モッコウバラ、楠や欅の新芽も――この時期、スタジオ・コンチェ
ルティーノの辺りは華やいでいる。「まだ5月ではありませんが、風薫るような一日、ウィーンの魅力をピアノ
と歌でという、これまでになかった形のセミナーです」と岡山潔TAMA音楽フォーラム代表があいさつ、講師役の
田辺秀樹・一橋大学名誉教授を紹介した。
「異色のセミナー」の理由のひとつは田辺先生が音楽家ではないことだが、中学2年まで本格的にピアノを学び
、音楽に関係の深い分野の研究を続けているドイツ文学者。おふたりは岡山代表が西ドイツ・ボンのオーケスト
ラのコンサートマスターをつとめていた時期に、田辺先生がボン大学に留学、知り合った。岡山代表は自らがウ
ィーン音楽大学で教えていた2006年当時、田辺先生がウィーンのフォルクスオーパー(国民歌劇場)に近い名の
あるカフェでピアノを弾き始めると、少しざわついていたその場の雰囲気ががらりと変わった事実を「目撃者談
」として紹介(筆者の勝手な想像では、過去から今に連なる4次元の絶妙な空気感がお客ひとりひとりの心の琴
線に触れたのだろう)、今日のレクチャー&コンサート「ウィーンのカフェにて」を企画した背景を明かした。
先生は学生時代に東京・新宿の酒場でピアノのアルバイトをした経験もあるそうで、「最近はカラオケに押され
て生ピアノの店が少なくなった」と残念がる。
レクチャー&コンサートの前半は田辺先生がウィーンではすっかりお馴染みの7曲を選び、解説とピアノ演奏を
繰り返す形で進んだ。1曲目はウィーン生まれでピアニスト、歌手でもあったヘルマン・レオポルディ
(1888~1959年)の代表作のひとつ『ヘルナルスの小さなカフェにて』。先生は「ヘルナルスという郊外にある
何てことないカフェ、都心にあるようなカフェではなく高級でも有名でもないが、独特の安らぎ、くつろぎがあ
る」「本来は歌がついた曲で、my songです」と説明してからピアノに向かう。「屋根」と呼ばれる上蓋の部分を
半開きにとどめているのは、音をホールに鳴り響かせるのではなくて、うらぶれた感じを出したいからとか。
2曲目はオペレッタ『チャールダーシュの女王』で知られるハンガリー生まれのエメリヒ・カールマン
(1882~1953年)によるオペレッタ『マリツァ伯爵令嬢』から『ウィーンへのあいさつ』。ウィーンを懐かしん
で讃える歌で、前半は物悲しいジプシーの旋律、後半はワルツになっている。次はウィーン生まれの脚本家・作
曲家ローマン・ドマニク=ロル(1882~1938年)の『懐かしの1830年代』で、ハプスブルク帝国が衰退へ向かう
19世紀後半にはやった懐古趣味の色濃いウィーン歌曲(Wienerlieder)のひとつ。田辺先生は「世紀末の人びとに
とって19世紀の前半こそが最高の時代だった」と解説する。
さらに、カールマンとともに20世紀初めの「オペレッタ銀の時代」を代表するハンガリー(現スロバキア)生
まれのフランツ・レハール(1870~1948年)の有名な『メリーウィドウ』から2曲を採り上げ、「これらはカフェ
のピアニストにとっていちばん大事なメシのタネ」と付け加えた。また、ウィーン生まれのピアノの巨匠フリー
ドリヒ・グルダ(1930~2000年)がよくアンコール曲として弾いた『ウィーンの辻馬車の御者の歌』を紹介した
。これはハンガリー出身のグスタフ・ピック(1832~1921年)の作品で、歌詞では年寄りの御者が自分の商売を
自慢したりする。ウィーン歌曲のなかで最もよく知られている曲のひとつである。
ここで休憩。何と、聴講の皆さんに「ベートーヴェン」(白)や「ハイドン」(赤)といったブランドのオース
トリア産ワインが用意されていた。粋なはからいに大感激。
後半はソプラノの西野薫さんが加わって4曲。アンコールの声にこたえて、さらに3曲が披露された。まず、最
後期のオペレッタ作曲家のひとりで、数多くの録音を残した指揮者でもあったロベルト・シュトルツ(グラーツ
生まれ、1880~1975年)のこれまた有名な『プラーター公園の春』。「いまの季節にぴったりの歌」(田辺先生
)で、日本語のせりふも加わって実に楽しかった。ひき続き、ワルツ王ヨハン・シュトラウス2世(1825~99年
)のオペレッタ『踊り子ファニー・アイスラー』から『ズィーファリングの郊外では』、シュトルツの『ウィーン
は夜こそ素晴らしい』、先生曰く「またあれか、と言うほど有名な」ルドルフ・ズィツィンスキー(1875~1952
年)のウィーン賛歌『ウィーン、わが夢の街』へと進んだ。
アンコール曲のうち、ナポレオン後のヨーロッパの秩序をめぐって協議したウィーン会議に題材をとったオペ
レッタ映画『会議は踊る』(1931年)のためにヴェルナー・リヒャルト・ハイマン(旧ドイツ・ケーニヒスベルク
=現ロシア領カリーニングラード=生まれ、1896~1961年)が作曲した『ただ一度だけ』では、聴講席から手拍
子が入るなど、おおいに盛り上がった。
格式のあるクラシック音楽とはちょっと違う、どこか耳にやさしく懐かしい音楽が聞こえる日常――ウィーンの
カフェとはそんなところらしい。筆者には、ミルクコーヒー(メランジュ)を注文すると一緒にお水が出てくる
のでありがたかった、くらいの記憶しか残っていないので、また行ってみたいと思う。
ところで、ユダヤ系のレオポルディは1938年のナチによるオーストリア併合とともに、ドイツの強制収容所に
送られたが、運よく9か月で解放され、アメリカに亡命。シュトルツもナチを嫌ってアメリカに移住した。両者は
ニューヨークで家族ぐるみの付き合いをしたという。彼らは第2次大戦後、ウィーンに復帰し、再び活躍する。シ
ュトルツは1975年6月27日に滞在先のベルリンで死に、7月4日にウィーンの中央墓地に埋葬された。1万人ともい
われる多くの人びとが参列したそうだ。市民に人気があった証しである。
田辺先生が今日のセミナーで採り上げた作曲家の半数はこの街の出身ではない点も興味深い。すぐれた才能を
引き寄せ、いわばウィーン化して再生産する音楽の都のふところの深さには感心する。ウィーンは保守的だ、な
どと批判する向きもあるようだが、少数派だろう。
なお、田辺先生のピアノがCDになり、近く発売される。この秋には東京でリサイタルを開く予定という。
(走尾正敬)
セザール・フランクのヴァイオリンソナタ
講師:福中冬子(音楽学)
日時:2016年6月19日(日)15時 スタジオ・コンチェルティーノ
演奏:近藤薫(Vn.)長尾洋史(Pf)
レクチャー・コンサート
この日のセミナーは岡山潔TAMA音楽フォーラム理事長のあいさつで始まった。「福中先生は近所にお住まいで、実は何年も前の初日の出の時にお会いした。芸大では私が退官してから来られたのでそれはすれ違い。3年以上前(2012年9月)にTAMA音楽フォーラムで現代ドイツ作曲家ヴォルフガング・リームのピアノ3重奏の講義をしてもらった。専門は現代音楽なのだが、今日はフランクのヴァイオリンソナタを取り上げていただく。そのあとの演奏はともに現在活躍中の若手で、二人によるこの曲のCD録音を聞き、感心したので来てもらった」。
福中先生のレクチャーは1時間にわたる熱のこもった内容だった。その概要は以下の通り。
*ここでリームのレクチャーをした後、岡山先生から誰のヴァイオリンソナタが好きかと聞かれたので、セザール・フランクと答えていた。現代音楽が専門だが、疲れたら、ショパンやブラームスをよく聞く。大学(国立音大)をでて、ニューヨーク大学人文大学院へ留学するとき、好きな曲として、フランクのヴァイオリンソナタのオイストラフ、リヒテルによるLPレコードをテープに入れて持って行った。まことに思い出の曲、多様な解釈が可能な名曲である。
*フランク(1822年~1890年)はベルギーのリエージュ生まれ。ショパンやシューマン、フランスに来たオッフェンバックと同世代で、サン・サーンスは10歳年下。当時のフランスはオペラやオペレッタが中心でその他の音楽は重視されなかった。この第二帝政時代が終わり、普仏戦争で敗戦して2か月後の1871年2月、国民音楽協会が設立された。フランクもサン・サーンスとともに創設にかかわった。これは「ガリアの芸術」を標榜し、フランスによるフランスの芸術をめざした。折から反ドイツ的ナショナリズムが盛り上がっていた。
*フランスの器楽音楽を考えるうえで、パリ音楽院の話が大切である。19世紀にパリ音楽院は今と違い、フランス人のためのエリート養成機関であり、外国人に開かれていなかった。だからベルギー人のフランクは父にフランス国籍を取ってもらって14歳でパリ音楽院に入学できた。のちにフランクがパリ音楽院のオルガン科教授になれたのもフランスに帰化来たおかげであった。
*ここで19世紀の欧州の状況を見直してみよう。いわゆる国民国家が成立した時代であり、ドイツは国家統一が成り、スラブなどでも民族独立の動きがあり、自分の国の文化、言語、伝統を重視し始めた。フランスではナポレオン3世の第2帝政時代(1852~1870年)、予算はもっぱらパリ・オペラ座に投入された。オペラは言語を使うから、言語統一のためにも、国の色が出やすいオペラ、オペレッタが大切にされた。
*オッフェンバックの「パリの生活」は第2帝政時代のパリの世相を見事に示している。1850年代に鉄道がフランス全土に敷かれ、人はパリをめざす。華やかなパーティに彩られた夜の生活。パリ・セーヌ郡の長、ジョルジュ・オスマン。近代都市パリを作った人物である、今もオスマン通りが残る。このパリを軽薄と見た人も多かった。イポリット・テーヌがその一人で、1860年代、アメリカ人を装って、パリを風刺した。テーヌはここでベートーヴェンの最後のピアノソナタを例に挙げて、ドイツ人の精神性を強調した。ドイツ圏ではベートーヴェンとロッシーニの対立が表面化していて、この構図がフランスとドイツの対立構図に移行したといえる。
*第二帝政後に成立したフランス国民音楽協会に反ドイツ的要素があったのは確かだが、フランスには器楽音楽に基準となる形式がなく、モデルとしてはやはり、モーツァルト、ベートーヴェンなどドイツ・オーストリアの音楽伝統であった。そしてこの上に近代フランス音楽が形成された。
*ここで重視されたのがソナタ形式であった。音楽形式にはロンドや変奏曲やいろいろあるが、ソナタ形式にはドイツ的な統一、統合の概念がある。二つの主題が別の調性であることなどの決まりもある。(ここで福中先生はピアノに向かい、実例としてモーツァルトのピアノソナタK545の第1楽章の2つの主題、また、ベートーヴェンの第5交響曲の第1楽章の2つの主題を弾いた)。
*さて、フランクのソナタは第1、第2楽章がソナタ形式で書かれている。(第1楽章の冒頭を弾いた後)この第2主題は第1主題とつながっている。また2拍目にアクセントをつけるのがフランクの特徴だ。この第3楽章冒頭、第1楽章の主題が変形して、リズムが揺れる音型でもこの特徴が出ている。このような「回想」は曲の随所に現れる。つまり循環構造という手法をフランクは使っている。
*フランクはドイツ的な技法に基づきながら、これをフランス風に表現したといえる。このヴァイオリンソナタと同じ1886年にブラームスが作曲したヴァイオリンソナタ第2番イ長調のはじめとを比べてみよう。フランクのほうは危うさの中の浮遊感といった趣ではじまる。3和音による9度の和音が基本となり、これに不協和音が入ってきて、不安を醸し出す。和音の使い方がブラームスとは大きく違うのだ。
*第1楽章の第1主題がひそやかで、第2主題が堂々と出ることや、展開部があまり展開せずに縮小して再現部に入るなどフランク独自のソナタ形式がここにある。このころ、ドビュッシーはすでに「春」を発表し、印象主義が彼に結び付けられ、フランクは旧式の作曲家だとも考えられていた。ただ、フランクはフランス的なものをドイツ的な形式に巧みに結び付けた。そこにフランクらしさがある。
福中先生の講座はここで終わり、休憩のあと、ヴァイオリンソナタの演奏となった。二人の若手奏者はともに活気と情熱にみちた演奏を繰り広げた。アンコールとして、ヴァイオリンの近藤さんは「師匠岡山先生のリクエストで」といいながら、フォーレの4手連弾用の「ドリー」(作品56)の中の「子守歌」のヴァイオリンとピアノ編曲版を優雅に演奏してこの日のセミナーは終わった。(記録:西谷晋)
シューベルトとシューマンのピアノ作品
講師:ゴットリープ・ヴァリッシュ(Pf)
日時:2016年8月14日(日)15時 スタジオ・コンチェルティーノ
レクチャー・コンサート
【演奏プログラム】
ロベルト・シューマン:子供の情景
第1曲 見知らぬ国と人々について
第2曲 不思議なお話
第3曲 鬼ごっこ
第4曲 おねだり
第5曲 十分に幸せ
第6曲 重大な出来事
第7曲 トロイメライ
第8曲 暖炉のそばで
第9曲 木馬の騎士
第10曲 むきになって
第11曲 怖がらせ
第12曲 眠りに入る子供
第13曲 詩人は語る
フランツ・シューベルト:3つのピアノ曲 D,946
1. 変ホ短調 2.変ホ長調 3.ハ長調
G・ヴァリッシュによるレクチャー・コンサートは、昨年10月12日以来の第2回目で、その時はモーツァルトのK.330ソナタ、ベートーヴェンの6つのバガテルOP.126,シューベルト4つの即興曲OP.935というプログラムであった。今日は初めにシューマン、それからシューベルトを取り上げ、実に綿密な解説を加えながらピアノを弾き、休憩後にプログラム通りの素晴らしく心のこもった演奏をした。初めに岡山潔TAMA音楽フォーラム代表が「今日はお盆休みとあって、聴講者が少ないけれど、今日ここに来た人は幸運ですよ」という通り高度に充実した展開となった。当初、シューベルトの代わりに、ショスタコーヴィッチの「24の前奏曲」OP.34が予定されていたが、講師の要望で、シューベルトに変更された。レクチャーのドイツ語通訳はヴァイオリニストで、ミュンヘン室内合奏団員の吉川幸祐さんが務めた。
レクチャーは実にち密、細部にわたったが、そのごく一部をここに記録しておく。
(シューマン:子供の情景)
*この有名な曲について話すのは簡単ではない。彼の作品番号23まではすべてピアノ・ソロのために書かれた。つまり、1830~40年の間はピアノの年であり、この曲は1838年3月にできた。このときコンサートのためウイーンに滞在していた9歳年下の天才少女で後に結婚するクララ・ヴィークにあてた手紙で、30もの小さな作品から12曲を選んで「子供の情景」と名付けたと報告している(後で1曲加えて13曲になった)。
*抒情的で親密なこの曲には当時誤解も生じた。子供のための曲と見られ、難しすぎる、子供には3つの手が必要だとの評もあった。実はそうではなくて、大人が振り返った子供のころの情景といえよう。シューマンもそのように述べている。
*彼が一番影響を受けたのはバッハとジャン・パウルであった。この曲のなかでBACH
の音型が使われているし、第13曲では、バッハへのオマージュとして、4声のためのコラールが聞こえる。
*彼は作曲を終えてから曲のタイトルを考えた。ドビュッシーもそうだった。いまこのスタジオにかかっている絵はどうだろう、といったところで、岡山潔代表が次のように補足説明をした。「この絵画は私の友人が描いた「天上の楽師たち」シリーズの一枚で、彼も描き終わってから題名を考えた。初めにタイトルがあると表現内容が規定されてしまうのを恐れた点では、シューマンと同じであったろう」。
*この曲の素晴らしさは、詩的ファンタジーばかりではなく、作曲技法と構成からもそういえる。第7曲のトロイメライが頂点をなす山波を描いている。最初の6曲はすべてシャープのつく調性で、6度の上下移動を多用している。それからヘ長調のトロイメライが来る。すごい変化である。
*ここで彼のメトロノーム指示について述べておきたい。トロイメライの指定は4分音符=100だから、かなり速く、1分40秒ぐらいで終わる、と弾いて見せた。ホロビッツやハスキルなどの大家ははるかに遅く、倍近い遅さの演奏もある。1868年にクララがシューマン全集を出したが、ここでは、トロイメライのテンポは80に、つまり20%遅くした。私もシューマンの指定に従うわけではないが、とても参考になる。トロイメライを速めに弾くと子供らしさが出る。第1曲の指定もとても速い。それにより、自発的で軽やかな雰囲気が出る。
*第1曲と第13曲のタイトルは理解しにくい。第1曲の「見知らぬ国と人々について」は彼がウイーンにいるクララに思いをはせたのかもしれない。13曲の「詩人は語る」の詩人とは誰だろう。シューマンその人、自分の肖像と考えてよい。彼はすごく内気で、人に尋ねられてやっと答えるという風だったので、この第13曲でも曲想が途切れ途切れに進み、最後は一つ一つの和音を鳴らして消えていく。
(シューベルト:3つのピアノ曲D946)
*私にとって非常に特別な曲で、長らく弾いてきた。これは1828年、つまり最後の年の5月に作曲された。シューベルトは1826~28年の3年間に2つのピアノトリオ、弦楽4重奏曲や弦楽5重奏曲、「冬の旅」などの歌曲、即興曲D935などのピアノ曲と実に多くの優れた、しかも理解しやすい傑作を生みだした。しかしこのD.946の3曲は理解が難しい。やさしく歌う曲想ではなく、緊張感と葛藤があり、滑らかに進行しない。
*第1曲変ホ長調は疾風、嵐のように劇的で、バスラインを聞くといい。テーマは歌わず、紙を小さく切ってばらまいたような趣である。旋回しても上に行かず、閉じ込められた印象を与える。付点音符の進行が音楽を不穏なものにしている。3曲ともそうなのだが、下降への傾きがある。音型が下りていくことで沈痛な雰囲気が生まれる。「白鳥の歌」のなかの「アトラス」の曲想に似て、深刻な、運命的な痛みを感じさせる。この曲には一つの中間部があるが、もともとはもう一つの中間部があった。シューベルトは繰り返しが多いのを避けるためか、後でそれを省いた。だが、1868年にこの曲が出版されたとき、ブラームスは二つ目の中間部を復活して出版させた。以前私は中間部を二つとも弾いていたが、昨年から一つにした。今日はどちらにしようかな。(あとのコンサートではやはり中間部は一つだけで演奏された)
*第2曲変ホ長調。幻想曲D.934の冒頭のように震えるようにトレモロで始まる。ここでも第1曲同様、音の幅が狭い。つまり歌謡的でなく、深刻な感じがする。
*第3曲はハ長調となる。4分の2拍子のスケルツオ、ABAの三部形式。2度でだんだんと下降していく音型。この後はボヘミアンな奔放さを見せる。とても新鮮な感じがする。中間部は変ホ長調に転調して、緩やかに静かに進む。ふつうスケルツオの中間部は短くて軽いのだが、この中間部は82小節もある。最後のAの部分にコーダがついているのも珍しい。曲はいったん上昇するがやはり下方に向かって終わる。
(ゴットリープ・ヴァリッシュ氏の略歴)
1978年、ウイーンの音楽一家に生まれる。6歳からウイーン国立音楽大学に学び、H・メジモレックに師事。米国でのストラヴィンスキー。アウオードで第1位になるなどのコンクール歴を重ねる。欧州の主要オーケストラと、著名指揮者と共演を重ねてきた。その後活動範囲は世界に広がる。
2006年のモーツアルト記念年、09年のハイドン記念年には、ウイーン楽友協会でシリーズコンサートを開催。また、アルメニアのエレバンで毎年開催のオーストリア・アルメニア音楽祭の創立者であり共同監督も務める。2010年からジュネーヴ高等音楽院の教授。
2017年からベルリン芸術大学教授に就任の予定。
(記録:西谷晋)
バルトーク 44の二重奏曲
講師:今井信子(ヴィオラ)
日時:2016年11月6日(日)15時開演 スタジオ・コンチェルティーノ
この日は世界的なヴィオラ奏者、今井信子さんのTAMA音楽フォーラム2回目の登場である。最初に岡山潔代表が「この44のデュオは本来ヴァイオリン用の曲だが、ヴィオラ2本でも、チェロ2本でも演奏できる。この曲集は取り組めば取り組むほど難しく、しかし興味深い」と語りながら、今井信子さんを紹介した。
今井さんはまず「今日、ヴァイオリン2本のほかヴィオラ2本の編成でもレッスンし、演奏もする。私(今井)と佐々木亮さんのコンサート演奏では原調で弾くとの断りがあった。さらに今井さんは「昨年からスペイン・マドリードのソフィア音楽院という素晴らしい学校で最後の大きな仕事という気持ちで教えている。いい教材を探しているうちに出会ったのがこの曲集で、ブダペストに出かけ、そこの民族音楽の大家に二日間にわたりこの44曲を教えてもらった。バルトークはハンガリーのほか、ルーマニア、セルビア、ブルガリアなどの農民から集めた膨大な数の民謡から44曲のための素材を選び(ただ、第35,36曲だけは自作の旋律)、1931年に作曲した。私は昔、斎藤秀雄先生からハンガリー音楽の特徴を叩き込まれていたが、本場の人はそれを身体で感じていることが分かった」とヴィオラを弾きながら説明した後、レッスンが始まった。
受講生は4組で、①ヴィオラ2本=山本成(桐朋学園大学3年)と日下水月(同大学2年)②ヴィオラ2本=秀岡悠太(東京音大大学院)と柴田春音(同大学院)③ヴァイオリン2本=葉石真衣(東京芸大大学院)と小山あずさ(東京芸大卒、仙台フィル団員)④ヴァイオリン2本=長尾春花(東京芸大博士課程、フランツ・リスト音楽院留学中)と花岡沙季(東京芸大卒、フランツ・リスト音楽院修士卒)の8人。この4組の若手演奏家が44曲のうち、バルトークの示唆に従って今井さんが選んだ12曲をかわるがわる演奏して、今井さんの実に綿密な指導を受けた。また、それぞれの曲の中で、1910年代のバルトークが収集した当時の農民の歌の古い蝋管による録音が参考として流された。以下は、12曲の曲順とその指導内容をごくかいつまんで記す。
44曲=トランシルヴァニアの踊り=ヴァイオリン2本の③組の演奏。きれいに弾けたが、メロディーはもう少しよたった感じがほしい。やりすぎはいけないけれども。水彩ではなくもっと油絵的に情熱的をこめて。リズムがすごく大切、2つの声部がしっかりと聞こえるように。農民の音楽はシンプルに見えるがそうではなく、生活からにじみ出す味わいがある。曲の後半はどんどん泥臭くなる。特に最後は、力強く最後の音の一つ前の前打音である16分音符を勢いよく弾き切って、しっかりと終結音を決めたい。
19曲=メルヒェン=ヴィオラ2本の②組の演奏。おとぎ話の感じを出したい。ブルガリアの3拍子、3拍子、2拍子のリズムだが、もっとなだらかに、平坦に進めるように。おなじテンポでも速い遅いの感じを表現できるが、ここは、遅く感じるように演奏したい。(第2ヴィオラに)これを伴奏だと思わないこと。伴奏ではなく、対旋律として音楽に寄り添うこと。
16曲=ブルレスク=ヴァイオリン2本の④組の演奏。これは実は失恋の歌なのだと古い録音を聞かせる。歌うところとスタッカートのところを弾き分けたい。もっとリズムの強調がほしい、そして演奏に自在さがあっていい。
28曲=悲しみ=ヴィオラ2本の①組の演奏。初めの7小節は前奏のつもりで、ヴィブラートをほとんどかけずに静かに。そのあと「話」が始まる。まことにハンガリー的、バルトーク的に。主旋律では特定の音を強調しすぎないように。第二ヴィオラはひとりで行かず、第一奏者を支えるつもりで。バルトークの肉声を聴くと、ピアノとかバルトークとかの発音は頭にアクセントがある。音楽でも同様である。
43曲=ピチカート=ヴァイオリン2本の③組の演奏。アレグロではなく、アレグレットのテンポで弾きたい。もっと強調してほしいところがある。二つの楽器の対話の表情の違いに注意すること。
36曲=バグパイプ=ヴィオラ2本の①組の演奏。最後が貧弱だ。しっかりと決めること。上品すぎる。まじめすぎないで、もっと土臭く前へ前へと強引に進む感じ。曲の終止はピタッと止める。このあとヴァイオリン2本の④組が繰り返しなしで同じ36曲を弾く。今井さんの指示があったせいで、力強く演奏した。
21曲=新年の歌(1)=ヴィオラ2本の②組の演奏。この曲は3段階からなっている。始まりは開放弦で、単にきれいな音ではなく、多少かすれ気味のような音で情感を出して。テンポはもう少し早めに。音楽演奏にはパッシブ(受動)とアクティブ(能動)の要素が代わる代わる出てくるものだが、ここはパッシブに演奏したい。第一ヴィオラのボウイングへの注意もあった。
42曲=アラビアの歌=ヴァイオリン2本の③組の演奏。この曲はフルートとドラムを模したところがある、としながら、古い歌による録音をかけて聞かせる。中間部はスタカート気味に弾く方がいい。クレッシェンドは少し早めにかけるように。
1曲=からかい歌=ヴィオラ2本の①組の演奏。これは実はからかい歌ではなく、マッチ・メーキング(結婚仲介の意味か)の曲である。あまりヴィブラートをかけずに、シンプルに演奏すること。
8曲=スロヴァキアの歌(2)=ヴァイオリン2本の②組の演奏。よかったけれども、もう少し自分の歌になるように工夫を。半音のところに節をつけるとか、スラーをかけるとか表現を考えてほしい。
6曲=ハンガリーの歌=ヴィオラ2本の②組の演奏。初めのところの3つの音に変化をつける。平板にならないように。最後の音はヴィブラートは要らない。
9曲=遊びの歌=ヴァイオリン2本の③組の演奏。最初から8分音符を少し長めに弾き、進んでいくこと。
以上でレッスンが終わり、休憩後、今井信子・佐々木亮の二つのヴィオラによるコンサートになった。プログラムはレッスンと同じ12曲が同じ曲順で演奏された。佐々木亮氏は日本を代表するヴィオラ奏者で、現在、NHK交響楽団の首席ヴィオラ奏者として、また室内楽奏者として多彩な活動を展開している。二人の演奏はまことに力強く、且つ繊細で、バルトークの弦による「ミクロコスモス」を見事に描き出し、素晴らしい世界が広がった。そして最後に本日の受講者全員が加わり、第44曲トランシルヴァニアの踊りがレッスンの成果を示しながら、きわめてスケール大きく、情熱的に演奏された。(記録:西谷晋)
J.ブラームスの後期室内楽
「ヴァイオリンソナタ第3番」希望の響き、歌曲<教会墓地で>を背景に
2017年2月18日(土)15:00開演
スタジオ・コンチェルティーノ
今日は音楽学者の藤本一子さん(元・国立音楽大学教授/東京芸術大学講師)によるレクチャー・コンサートである。3年前のシューマンの室内楽に続き、今回はブラームスの後期室内楽、特にヴァイオリンソナタ第3番とその歌曲との関連に焦点を合わせた内容となった。
藤本さんは最初にスクリーンにブラームスの生地ドイツ・ハンブルクの遠景を映し、次いで同地のブラームス記念館と洗礼を受けたプロテスタントの聖ミヒャエル教会の写真を見せた。教会前にはルターの銅像が立っている。そのうえで、藤本さんは、ベートーヴェンの後のドイツ民衆的、プロテスタント的な古典的作曲家というブラームス像とは違う面が最近の研究で次第に明らかになってきていると指摘した。ブラームスが活動した19世紀後半においては、シューマンの評価のほうが高く、ブラームスはむしろ伝統的で古臭いとみられていた。しかし、近年では、繊細で複雑なブラームス像が浮かびあがり、シェーンベルクへの橋渡し的な位置があたえられるようになった。
ブラームスの後期室内楽にはシューマンの影響の中に、死を恐れる人間像が刻まれている。「神よ、我は何により生きているのか」このような思いが後期のブラームス音楽に反映している。
1886年、夏の滞在地、スイスのトゥーン湖で後期室内楽4作品が完成ないし作曲が開始された。チェロソナタ第2番作品99、ヴァイオリンソナタ第2番作品100、ピアノ3重奏曲作品101、そして完成が2年後となるヴァイオリンソナタ第3番作品108という4傑作である。
藤本さんによるとこの4作品はいずれも「下行4度」の多用を特徴とする。「下行4度」は不安定な完全協和音程で、バロック音楽理論では「疑念・嘆き」を示す。この例として、J.S.バッハの平均律曲集第1巻22曲のフーガ変ロ短調を例に挙げ、ピアニストの奈良希愛さん(国立音楽大学准教授)が冒頭を弾いてくれた。ブラームスはチェロソナタ第2番の出だしで4度上行した後4度下降することや、ヴァイオリンソナタ第2番の始まりでは、下行4度を繰り返して、イ長調主和音の定着を試みた。ピアノ3重奏第3番では強烈に主和音を提示した後、「下行4度」半音を導入して厳粛感を出す。ヴァイオリンソナタ第3番では4度上行したあと「下行4度」へ移る主題を提示している。このように彼はまことに多彩な音楽をここで作っている。
3つのヴァイオリンソナタはそれぞれ自作の歌曲と関連している。第1番作品78は「雨の歌」と「余韻」、第2番作品100は「メロディーのように」や「来てすぐに」、第3番は「教会墓地で」、「嘆き」、それにシューマンの「春の到来」、また歌曲ではないが、ブラームスの「11のコラール前奏曲」作品122に関連している。
さて、きょう、中心になって取り上げる第3番ニ短調のソナタは2年の推敲を経て1888年に完成し、珍しくも献呈者つきで出版された。3つの楽章からなる。第1楽章アレグロの第1主題は歌曲「教会墓地で」のエオリア調のコラール旋律(もとは17世紀の受難歌とされる)に基づいている。「下行4度」が示す嘆き、「減7和音」の示す欠如、またため息と戸惑いが表現されている。第2楽章アダージョの中間の重音部分はハンガリー風の哀感があり、主題の旋律は歌曲「嘆き」(「青春は過ぎ去った、今は冬、今は冬」)からとられている。第3楽章の少しプレストで情感を込めて(嬰ヘ短調)は、特に歌曲旋律を用いていないが、
要所に「下方4度」が出て、経過部では「教会墓地」でのエオリアン・ハープ音型が現れる。第4楽章プレスト・アジタートの主題はやはり「下方4度」で経過部にハープ音型が出る。第2主題の旋律はシューマンの歌曲「春の到来」(「暗い日々が過ぎ…花たちは天を見上げて咲く、心よ快活で大胆であれ!」)を引用している。
こうしてみるとブラームスはこの4つの楽章を通じて、悲嘆と願望から快活な喜びに向かって、歌曲の旋律を使いながら希望の響きを奏でているといえよう。また作風は一見伝統的なのだが和声法は新しい。1889年ブラームスはクラーラにあてた手紙でソナタ第3番について「この作品をあなたが心和んで弾いてくれるなら嬉しいのです」と書いている。
でも、これだけではまだブラームスの素晴らしさを十分に述べたとは言えない。
第1楽章をもう一度詳しく見てみよう。伝統的なソナタ形式だが随所に近代性がある。たとえば提示部ではピアノ部がユニゾンをずらすことでためらいを表現し、和声をふくらませている。また、歌曲「教会の墓場」の「嵐」の音型が様々な箇所で侵入し、前進をためらわせる。展開部は本来の役割を捨てて、美しい霧の中に沈潜するようで、最も魅力的なところとなる。ここではイの保続音のうえで、バロック的分散和音が近代的な和声の揺らめきに包まれる。コーダでは、第1主題がフォルテで登場し、霧の楽句で前進をたじろがせるが、最後はニ長調の高みで閉じる。このように、ロマン主義の後の現実の中で、新たな抒情を再構築しながら、慈しみと希望がうたわれる。
ブラームスが初めてシューマン家を訪れた1853年、すでにロマン主義は終わりを告げていた。この中でブラームスは苦悩しつつ、新しい未来を切り開いたのである。
藤本さんは最後に「今日のお話によって、皆様にブラームスの新しい景色が見えたと思って下さったら、とてもうれしいです」と語った。
休憩の後、コンサートに移り、藤本さんのレクチャーに従って、ブラームス作品が演奏された。まず、「5つの歌曲」作品105から4曲。第1曲「メロディーのように」、第2曲「私のまどろみは、いよいよかすかに」、第3曲「嘆き」、第4曲「教会墓地で」。これは谷地畝晶子さん(岩手大学、岩手県立大学講師)のアルト、奈良希愛さんのピアノで演奏された。
続いてヴァイオリンソナタ第3番作品108の全4楽章を戸原直さん(東京芸術大学院修士課程2年)のヴァイオリンと奈良さんのピアノで演奏された。
アンコールとして、谷地畝さんが再登場し、ヴァイオリンをヴィオラに持ち替えた戸原さんと奈良さんのピアノにより、ブラームスの「2つの歌」作品91の第2曲「宗教的な子守歌」が夕べの静寂のなかをしみじみと流れていき、この充実したレクチャー・コンサートを締めくくった。(記録:西谷晋)
公開レッスン&コンサート
「ドビュッシーのチェロソナタ」
2017年3月12日(日)15時 スタジオ・コンチェルティーノ
講 師: 山崎 伸子(チェロ)
共 演: 津田 裕也(ピアノ)
「きょうこそ春、このところ冬と春が行ったり来たりでした。きのう紀尾井ホールでシューマンの(交響曲第1番)『春』を聴きました。ようやく春が来た感じです」――岡山潔TAMA音楽フォーラム代表は開口一番、春の訪れを宣言した。スタジオ・コンチェルティーノの辺りは長い斜面に植えられた梅の花がほぼ終わり、人家の庭先の白いモクレンが目立つ。頬に当たるそよ風は少し冷たいが、着込んでいるせいで、5分も歩くと汗ばんでくる。お天気にも恵まれて、聴講席は満員になった。
この日の公開レッスンの講師はチェロの山崎伸子・桐朋学園大学特任教授(東京藝術大学名誉教授)で、俗に印象(主義)派などと呼ばれるフランスの作曲家クロード・ドビュッシー(1862~1918年)が最晩年に作曲したチェロソナタ・ニ短調(1915年)を受講曲に選んだ。彼はそれぞれ楽器が異なる6つのソナタの作曲を計画したが、すでに重い大腸がんを患っていたためか、完成したのはこのチェロソナタを含む3曲だけだった。作曲家唯一のチェロソナタとされ、プロローグ、セレナード、フィナーレの3楽章で構成、長くはないが、高度な演奏技術と豊かな感受性が要求される難曲だ。
山崎先生が用意したローラン・マニュエルによる解説資料(遠山公一訳)には「夢幻と謎に満ちた柔和なプロローグが終わると、曲は辛辣で気まぐれに跳ねまわるセレナードを迎え、少しの間夢を見るような物悲しさに戻るものの、終曲は陽気で快活さにあふれている」とある。
受講生はaとbの二組で、aはチェロが桐朋学園大音楽学部1年の内山剛博、ピアノが東京藝大大学院ソルフェージュ科の追川礼章、bはチェロが桐朋学園大ソリスト・ディプロマ・コース1年の水野優也、ピアノが桐朋学園大カレッジ・ディプロマ・コースの神谷悠生のそれぞれお二人。まずa組が通して演奏した。終始、笑顔で聴いていた山崎先生は「すばらしかったですよ」と言って奏者を落ち着かせ、第1楽章からレッスンを始めた。チェロの内山君に「上着は脱いだ方がいいのでは」「右の肩の位置が動かないように」とまず注意、続けて、弦に弓を当てる位置や左手指による弦の押さえ方といった基本動作を指導する。さらに「音色がきこえてこない」「初速を速く、響きを引っ張る感じで」と注文をつけ、自ら繰り返し手本を示すなど、熱のこもったレッスンになった。
b組もまず通して演奏。山崎先生は「勢いがあってすばらしいですね。第2楽章からやりましょうか」「ドビュッシーはストラヴィンスキーのバレエ『ペトルーシュカ』のなかで、人形が目覚めて、だんだん動き出すところを連想して、ピチカートを使い、ピアニッシモで表現した・・・」と解説し、弦に当てる弓の位置を変化させて立体感を出すとか、弓のスピードの使い分け、ピアノのペダルの使い方など、まず技術面を指導。
次に山崎先生はお二人に第2楽章はどんな感じがするか質問した。チェロの水野君は深海のイメージ、動かない感じなどと言い、ピアノの神谷君は感情が発散する感じ、だるい感じなどと答える。先生は「チェロとピアノとで感じ方が違うので、作曲家が楽譜に封じ込めた表情を取り出すには、二人で議論して表情を決める必要がある」と注文をつけた。そして、作曲当時、ドビュッシーは病気で、痛みがあったからか息苦しいような音のところもある、それでも作曲家は生きる喜びを感じていた、第一次大戦でフランスがだめになっていく不安といった心理状態や時代背景が千変万化の音色に織り込まれている、などと付け加えた。
楽譜には書いてない多くのことがらを学び、表情を磨きあげて、息の合った演奏をするには並大抵でない努力が必要なことは素人の筆者にも理解できる。4人の受講生の皆さんのさらなる精進と飛躍に期待したい。
コンサートでは山崎先生のチェロと最近の活躍が注目される若手ピアニスト、津田裕也氏の共演で、ドビュッシーのチェロソナタ、さらにフレデリック・ショパンのチェロソナタ・ト短調(Op.65)の2曲。「上手な生徒のあとは弾きづらいですね。緊張してしまって・・・」と冗談を言ってから、ドビュッシーの模範演奏。まさに千変万化の響がいっぱいに広がった。ショパンの曲(最晩年の1846年に作曲、友人でチェリストのオーギュスト・フランショームに献呈された)は「ピアノの詩人」らしくピアノが大活躍。大きな拍手にこたえて、ドビュッシーの「亜麻色の髪の乙女」が演奏された。(走尾 正敬)
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